ホーメルト地方の南に位置する大陸である。
ホーメルト地方概説にもあるように、フェルナンド帝国がそのほとんどを統治している。わずかに残っているのはロスティア王国およびブラウドル皇国のみである。このうちロスティアはその地理的位置および戦略的重要性から占領に至っておらず、ブラウドルは皇帝アーサー自身大氷原の中央に国家が存在するなどと想像していないため、占領していない。
この大陸は大半が南極圏（南緯67度）以南に位置するため、冬季は極夜に、夏季は白夜の季節となる。旧シリア首長国の首都クルスーム・ピラー（クルスピリア）は南緯66度ほどであり、夏至近辺でもわずかに太陽が昇る時間がある。中央のセイレイ山脈（大陸西側ではシャマトル山脈）を境に、気温は急激に変化する。夏季、北側ではこの緯度では考えられぬほど高温になるところもあり（クルスーム・ピラーなど、40℃にもなる）、これに比較してロスティアや大陸南西部の「無名の平野」などは、摂氏0℃より上になることが稀である。この中間地帯が西部のシャマトル・スィーナー山脈に挟まれたサーマイト地方である。ここには過去サーマイト王国およびアルカレティアス王国（商人の王国として名高かった）があり、昨年のフェルナンド侵攻（レッドストーム作戦）によって占領されている。
セイレイ大陸全体としては、大雑把に北半分（南緯62度〜72度程度）がなんらかの理由で比較的温暖もしくは高温に保たれており、南緯72度近辺を境にそれ以南の気温が急激に低下する。南部の方が通常考えられる気温であるため、フェルナンド帝国としては北部の気温が保たれている理由の調査こそが重要となる。南部の調査を重要視せず、棚上げしている理由である。この異常な気温配置の中心はシリア湾に面したシルロ（シュルトロン）南に広がるアイアンハルト森（ガーバハディード）である。太古ここに居を構えようとした、セントリー・フェルサン率いる大白妖精の一団が、大規模な気候変換魔術を用いてこの地の気候を作り替えた。長い歳月を経てこの魔術は徐々に弱まっており、あと500年も持たないと考えられる。
シリア湾沿岸一帯は比較的肥沃であるため、昔から「シリア湾を制するものは、大陸を制する」と言われていた。昨年までシリア湾の制海権を握っていたのがシリア首長国であり、フェルナンド侵攻に際してもよく応えた。ことに湾の中央にあたるロッツ島を制していたことが大きい。しかし、裏エルヴァート・ホーストヘルンの＜愚者＞を迎え入れたことですべてが変わり、結局これを追い出すのにフェルナンドの力を借りることになる。フェルナンド皇帝アーサーは、「何でもする」の約束をかたにシリア首長国を占領する。フェルナンドは南のセイレイ渓谷に陸軍を進ませ、アーサーの号令とともに首長国内に殺到したのである。
シリア首長国などが健在のころ、大陸は西部のアルカレティアス王国を中心とした一大世界商業の拠点であった。商才にたけたアルカレティアス人は、主には危険なシャマトル山脈越えでシリアと交易していたが、海路クルスーム・ピラーへ出たり、シロル・ロゼッタ海を越えて南ホーメルトの港湾都市エレインへ出たり、さらに遠くロングッド・北ホーメルト・オージャスへ渡る船もあった。あるいはスメル大陸からの輸入品を、ホーメルトやオージャスへ出る前にこの大陸で一時休ませることもあった。中海側からホーメルトやネアー海に入るのは、シロル・ロゼッタ海の荒波を避ける時期を選ぶ必要があったからであり、死の海ではなおさらその傾向が強い（今でも帝国軍は海路をセイレイへ取るときには、アルカレティアス人に先導させている）。
このような航海術に長けた国家は、他に馬具笊ギルド、ファームズ帝国を置いて他になく（ただしファームズは裏エルヴァートに関してだけ、この2国より知識がある）、過去この3国は鼎立して東西の貿易を独占していたと言ってよい。フェルナンド・スメルといった大国といえど、これら3国を介さずに東西を行き来するのは困難であった。スメルがセイレイ・ホーメルトに侵攻していとも簡単に敗れたのは、シリアの航空戦力だけでなくここにも原因がある。なお、大陸南側の海は常に荒れており、まともな感覚の船乗りが乗り出すことはない。
馬具笊ギルドがラムサダス帝国によって滅ぼされたあと、フェルナンドやアマリスといった超大国による貿易は存在するものの、相変わらずアルカレティアスは独自の地位を保ってファームズとともに東西貿易を独占していた。ことに航海術の進歩による商品の大量安全輸送は取りも直さず価格の低下につながり、舶来物の価格は超大国のそれとは比較にならないほど安定していたのである。
フェルナンドによって滅亡に追い込まれた商人国家としては、他に北ホーメルトにあったダブリンがある。共和国とは名ばかりに商人による政治支配が進んだこの国は、アルカレティアスや馬具笊ギルド、ファームズといった正当商権国家(?)からは快く思われておらず、その間にあった交易はさほどでない。このためダブリンはほとんど北ホーメルトの中だけの流通支配に終始した。それどころか、彼ら自身知る由もないことであったが、裏ではファームズなどによって操られていたのである。
1,630年現在、残る商業国家はファームズ帝国だけである。だが、年々進歩する他超大国の航海術（とくにフェルナンドおよびラムサダス）によってスメル大陸との交易独占はかなり危ういものとなっている。裏エルヴァートの東マンダナグル社を基点として裏エルヴァート貿易を独占してはいるが、国内政情とからんでアマリス帝国との関係悪化もあり、フェルナンドが裏エルヴァートの存在に気付いたこともあってそれすら危うくなっている。貿易の技術によって裏エルヴァートではホーストヘルン・エストメスランドといった超大国から優遇されているファームズではあるが、仮にフェルナンドが裏エルヴァート貿易を開始して成果をあげるようになった場合、この地位は崩れるのかもしれない。
ロスティアの王オーレインは、強力なヴァンパイアである。また配下にアンデッドの軍団を抱えている。ただしオーレインは特殊な魔術により理性を保ったままヴァンパイアとなった存在であり、国民に対しては比較的公正な統治を行っている。ブラウドルは混沌神崇拝の国家であるが、どの神が信奉されているのかは不明である。