シルヴィス

シルヴィスは、アルファティウス帝国末期に存在した騎士団である。1,611年に皇帝ディンロミンナルア7世の命によって組織されたこの部隊は、魔術の支配する帝国にあって何一つ魔術に頼るところのない、完全実力主義の集団であった。基本的には、将来的に軍で対処不能な事態が発生することを想定して結成させたものである。ただし、先だって大陸の超大国スメル帝国が滅んだことに、皇帝が危機感を覚えたからだとも言われている。その類稀な戦闘力は主に北部のステッド流のものであるが、結成当初からほかの流派も存在していたし、最盛期においては9割が別の流派の人間だった。

シルヴィスは他の帝国軍と異なり魔術兵器を軽視してこれを用いなかった。このため大臣などの重鎮から良い目で見られず有効な援助が行なわれなかった。資金や武器のやりくりには最後まで苦労した。

騎士団結成の命が下ったとき、ダガヤン村の剣術道場ステッド流次期当主イェーガー・ステッドは28歳だった。またイェーガーと竹馬の友であるライズ・ヴェスティーは25歳。これにアゴルリアス・マーグ23歳、ケイ・ティラス・ミス23歳と続く。最年少はスカイス・クレイディの19歳。総勢14人の大半がステッド流の門下だった。彼らはダガヤン騎士団の結成式を行ない、即日生まれ育った村を離れ、首都イスロンへと旅立った。イスロンで皇帝に拝謁すると、皇帝は多いに感動してこの騎士団にシルヴィスの名を与えた。シルヴィスは「シルヴァーの騎士」とでも言うべき意味合いの名である。表向きは、全員がシルヴァーの信徒ということになる。しかし、シルヴィスの活動全期間を通じ、実際にシルヴァーを心から信奉していた者はほとんどいなかった。信仰心は二の次、あくまで実力主義の集団であった。なお、「ダガヤン騎士団のままが良い」と思っていた者もいたが、無論口に出すわけにはいかなかった。

イスロン到着直後に入団したレオン・デューラーズを含めた15人を、一般的に結成メンバーと呼ぶ（「準結成メンバー」と呼ばれることもあるが、この呼称は後述ライズの呼びかけ後のメンバーにも使われる）。

戦術、管理面を一身に負っていたのがライズである。彼はイェーガーにそうした才がないとみるや、それを自分の仕事として受け入れた。陣頭に立つこともなく、皇帝と直接対話することもなく、黙々と組織づくりとその維持運営に精力的に取り組んだ。ライズはイスロン到着後に「国家を憂う戦士求む」という呼びかけを全国に行ない、隊士を大々的に募集した。その上で集まった60余名から剣技に秀でた8人を小隊長に定め、イェーガーを頂点とするピラミッド型の組織を作り上げた。結成メンバーは団長、副長、参謀、経理、調達の他、5人の小隊長、5人の隊員となった。なお、小隊長は第一のケイ・ティラス・ミスがとくに秀でていると言われた以外、実力は順不同である。ライズ自身はイェーガーに次ぐ位置を占め、組織のナンバー2となった。2人の関係を知り、またライズの才覚をも知っているメンバーたちは、誰も文句を言わなかった。

シルヴィスは当初、主に首都イスロンおよびその周辺の都市、地域における治安維持をその任務としていた。彼らは不審人物を自由に検閲する権利を持っていた（もっとも、帝国軍にもこれを持っていると考えて、彼ら同様に検閲を行う者も多数存在していたが）。とくに1,614年の混沌戦争前後から、容赦ないやり口によってイスロン住民から恐れられるようになった。混沌戦争では主神シルヴァーが倒され、それによって皇帝ディンロミンナルア7世が死去、帝国は深刻な打撃を被ることになった。帝国軍には厭戦気分が広がり、首都を始めとした街では不穏な活動が相次ぐようになった。シルヴィスはその中でも帝国への忠節を曲げず、独自の価値基準により剛毅に行動を続けていた。即位した皇帝ディンロミンナルア8世は、すでに帝国の行く末を悟っていたため、シルヴィスがこれに準じることに、いささか良心の呵責を覚えていたとも言われている。

1,615年にはケビン・マクニッシュの乱鎮圧に参加。元々はロックオード・シサイ元帥に勅命が下っていたが、軍に蔓延していた厭戦気分も相まって初戦で大きな損害を被った。そのためシルヴィスに対してさらなる勅命が下った。シルヴィスが出撃した結果、マクニッシュは倒され、反乱は鎮圧された。発生から鎮圧までわずか4日。公式にはシサイ元帥の軍が鎮圧したと発表されたが、イスロンには正確な情報が噂として知れ渡り、これにより、一時的だがシルヴィスは首都の若者たちの間で人気になった。

最盛期（1,616年、革命勃発前後）にはシルヴィスは100人を超えた。しかしベルン・セルナンデスが革命を起こし、若者の関心が革命のさらにその後に集まると加入者は途絶え、また離脱者や戦死者が続出した。皇帝は革命軍に対して降伏し、首都が明け渡された。シルヴィスはこれに納得せずに首都を脱出して戦い続けた。テスラ城の戦いでは帝国軍の大半が降伏し、残存戦力の主力はシルヴィスと言っても良いくらいになった。帝国、そして騎士団最後の戦いであるウィンスゲイルの戦いにおいてシルヴィスは総勢38人、このうち8人が結成メンバーであった。もはや意地だけの戦いであり、新政府軍に対抗できる戦力などなかった。結成メンバーのうち5人はすでに戦死しており、残る2人（ロング・エブロネーズとレオン・デューラーズ）は離脱している。

ウィンスゲイルで戦死した38人は、その全員が郊外にある墓地に埋葬されている。なお、革命終盤には、小隊長という役職はほとんど意味を成していなかった。小隊長が補充されたのは革命前に退団したロングの第二小隊、レオンの第八小隊のみである。

以下は主な生存者。

第二小隊長ロング・エブロネーズは、1,615年のケビン・マクニッシュの乱鎮圧後に団を離れ、ダガヤン村時代の伝手を頼って南部のプラハルマへ移住した。彼はそこで伴侶アルシャ・オークリーを得、彼女の姓に改名してギルマンと名乗った。ロング改めギルマンは商人たちを集めて商会を立ち上げた。これはもはや帝国がもたないことを悟っていたためであり、その後に訪れる時代で地位を築くためであった。現在はオークリー商会会長として不動の地位を保っている。

第三小隊長セオドア・ドライアーは、ライズの呼びかけに応えた一人だった。ケビン・マクニッシュの乱でマクニッシュを実際に倒したのはセオドアである。テスラ城の戦いの中で夜陰に乗じて離脱、ラムサダス帝国で海軍軍人となり、その後相談役になっている。1,626年になって一時帰郷し、ウィンスゲイルでかつての戦友たちに献花している。

第八小隊長であるレオン・デューラーズは現在アルファ人民共和国シティ・ガーダー第一部隊長となっている。元イスロン在住の帝国軍人で、加入がライズの呼びかけの前だったため、結成メンバーの1人とされる。21歳だった。しかし革命以前、結成2年で離脱しており、その後は革命軍に参加。トライレックの戦いでは敵味方に分かれていた。ウィンスゲイル戦後にはさすがに祈りを捧げたが、それ以降はとくに何もしていない。なお、セオドアはレオンの存命を認識しているが、連絡を取ったことはない。レオンはセオドアの存命を知らない。

調達係ギー・テレキャスターは、現在新政府で副総務相を勤める。革命勃発直後に離脱し潜伏、1,620年になってレオンの伝手で新政府に仕官した。