エルヴァートでも極北に位置する場所である。アイスラント島の最北部は北緯70°になる。現在この地を治めるのはアマリス帝国である。その領土はアイスラントの南東にあるエルドレスの地に拡がり、さらに首都はその南のファームズ帝国を越えたヘレネスの地、赤道直下のアマリシアである。
過去アイスラントは、その名をもつ王国の土地であった。これを滅亡に追い込んだのがジアザー帝国（現アマリス）・フェルナンド帝国・そしてラムサダス帝国であり、魔法で固められたアイスラント王国といえど、敵わなかった。
アイスラントの南にあるデュール内海は、はるかな昔の魔法戦の残滓である。2つの巨大な魔力がぶつかり合って、その反動でうまれたのである。デュール内海の沿岸には古くからの国家もあるが、ここ10年ばかりのあいだに様々な小国家が誕生した。これは成長中であり、今はまだ到底大国（アマリス・ファームズなど）には敵わない。ただ、近年の軍事バランスおよび国際会議などの世界的な視野によって、これらの国家は独立を保っている。とはいえ、無論大国はこれらの国家が力を持つことを歓迎しはしない。発展に援助を送りながらも、その実自分達に対抗できるほどの力は与えないという暗黙の了解事項が各国には存在している。
とくにファームズ、アマリス、そしてライトネアの3か国は、現在三つ巴の緊張関係にあり、他の要素が紛れ込むことはいずれの国にとっても好ましくない。ある程度の援助によって、自身の陣営に引き込むというのが当面の戦略である。その中でアマリスは、古くはあるが強力でないケルマドをまず併合し、その後ライトネアを利用することによってファームズを併合しようと画策している。これはオージャスの覇者という大義のためには不可欠なものであろう。比較してライトネアおよびファームズの戦略は不明瞭であるが、ファームズとしては南北をアマリスに挟まれた地理的な不利をなんとか挽回せねばならず、このためにアマリスと一戦して勝つ必要がある。しかし、過去2回の戦闘（イルビジアの戦いおよびファルクラムの戦い）ではいずれも決定的でないにしろ敗北しており、そのたびに領土を割譲している。軍備の面からいっても単純な戦略での勝利は難しいというのがほとんどの研究家の意見である。
ファームズは裏エルヴァートにおける交易を独占する立場であり、現在のところ裏エルヴァートとの間の商品の流通で莫大な利益を上げている。万が一本土を喪失することになっても、裏エルヴァートで再起を図る手はある。ただし、近年フェルナンドが裏エルヴァートの存在に気づいており、この独占的地位が今後失われる可能性もある。
アイス山脈の南端、リッケンマイヤー島の北側に極線があり、それより北では夏至付近で白夜になる。過去アイスラント王国の首都であったパニアは、なんらかの魔術が四方数マイルを覆っており、北緯66°程度の高緯度にありながら一年中20℃程度の気温を保っている。しかし、アイスラント島およびローディヒ島、リッケンマイヤー島などは、そのほとんどが一年のうち半分以上を雪に覆われているような土地である。海岸線に点在する都市以外にはこれといって見るべきものもない。アイスラント島の中央付近は「常雪地帯」と呼ばれており、一年を通じてブリザードの吹き荒れる恐るべき死の土地である。霜巨人をはじめとした寒冷地に住むモンスターも多い。
島の東部にドライデラという活火山がある。またその北東には針葉樹林が広がっており、迷いの森と呼ばれる。この付近には「雪の女王」とあだ名される女魔術師が、滅亡したアイスラントの魔術師たちを率いて復讐の機会をうかがっていると言われている。