ジュンデルの小さな村で生まれた兄妹がいた。兄はモク、妹はレインという名前だった。二人は人間の父がアルフの母を監禁し、暴行して生まれた子たちで、幼い頃から人々に疎まれ、二人だけで身を寄せ合って暮らして来た。両親が死んだ後、二人が兄妹の一線を越えていることを知った村人たちは二人を責めて村から追い出し、武器を持ち、石を投げて逃げる二人を追った。
二人は血まみれになりながら崖に隠された洞窟に入り、今のモクレインの地に抜けた。村人たちが彼らを追い、妹に手を掛けようとすると、三頭の巨龍が現れて村人たちを皆殺しにした。三頭は、以下の条件に従うなら、このままレインに仕え、そしてレインのつがいであるモクにも従うだろうと言った。すなわち、レインとモクが国を治めること、同じように人里を追われてこの地に隠れ住む、そしてこれから訪れる者たちを匿うこと、そして彼らへの音楽の贈り物を欠かさないこと。人が集まるに従って、二人の名が国の名となった。混血児や、その他外界では許されぬ関係に悩む者たちを、世界中から多く引き受けることになった。
人々は楽器を持ち、月に一度は集まり、年に一度国全体で音楽の祭典を催すようになった。一度この年祭りを取りやめたとき、モクレイン全体を疫病と不作が襲った。それ以来、人々が祭典を絶やすことはなくなった。
龍たちは二人の娘エリにも従った。母レインに似ていたからだと言われた。アルフほどの長命を持たないモクとレインは、40年ほど国を治めた後、退位することになった。二人の長男であり、エリの兄であるハラルが王位を継いだ。だが、龍たちはハラルの言うことにほとんど従わなかった。龍たちが喜んで従うのは、エリだけだった。もしエリが死ねば、龍たちは誰の言うことも聞かなくなり、モクレインは外敵から無防備になる。ハラルと長老たちは悩んだ末に、龍に直接尋ねることにした。どうしたら従ってくれるのかと。ハラルに対して龍は不快な声で答えた。我らはレインにだけ従っているのだと。モクであるお前とは口を聞いているが、お前はレインをつがいとしていないようだ。なぜ約束どおりにレインが国を治めていないのかと。
龍たちは、レインか永遠に王座にあることを望んでいるのだと分かった。龍たちはエリもレインと認識していたため、ハラルは退位してエリがレイン・エリ2世として即位した。エリの配偶者を民から選び、モク・アル2世とした。
そして現在、女王はレイン・ラス8世である。
以下はこの国の代々の王族と長老会議、そしてイモータルのみが知る真実である。
レイン・テス3世はモク・アル2世の子ではなく、実兄ハラルの子である。
龍たちが「レインのみに仕える」と言った以上、国を治めるのはレインでなければならず、またその配偶者はモクでなければならない。しかし、二人にはもう国を治められない。一方で、龍たちはハラルとエリのことをモクとレインだと認識している。長老会議は考えた。龍が二人とその両親とを同一視しているのは、二人が「モクとレインの子」だからではないかと。であれば、エリが他から配偶者を得ても、その子に龍使いの力は継承されないのではないか…。
つまり…龍の庇護を得たいのであれば、ハラルとエリが、モクとレインとして国を治めねばならない。長老会議は、二人に父母と同じことを…男子と女子を最低一人ずつ成すように迫った。そして彼らの子も孫も、ずっとそれを続けて行くことを。二人も同じ結論に至っていたため、抵抗は弱く、短かった。それは彼らの父母が受けた仕打ちと犯した罪からすれば、重すぎる罰にも思えた。しかし彼らは、虐げられた民のために運命を受け入れた。
対外的にどうするのかという問題があった。主席バードが言った。「民から王を選び、またハラルの妃を選び、二人の感覚を狂わせて交わらせることにする」と。そしてこれは、代々の王家と長老会議のみの最高機密となった。実際には「次代のレインは常に兄弟の子」という条件があるだけであり、表向きの配偶者をこのように扱う必要はない。しかし長老たちは龍使いの力が消えるのを極度に恐れており、現在に至るまで例外はない。
なお、テスはエリの最初の子であり、男子がその後だったが、龍にとっては彼らの長幼は関係のないことであるらしかった。彼らはただ、レイン、そしてモクと認識できる存在がいさえすれば良いのだった。三代目以降、モク、レインいずれにも選ばれなかった兄弟姉妹は基本的には自由だったが、この秘密を口外しようとすれば即座に死ぬ魔法がかけられた。これらの魔法は主席バードのみが伝授され、継承された。
その日、ハラルは影のモクとなった。
ジュンデル王国の兵士が、1,602年にモクレインに至る回廊を発見し、一軍を率いてモクレインに侵入したもの。バード部隊の魔法では焼け石に水だったが、リンドヴルムが現れて兵士を根こそぎ蹴散らした。
唯一、命からがら祖国へ帰還を果たした兵士は、王国の魔術師団に掛け合って再度派兵。すると今度はニンキ・ナンカが現れて魔術師たちの魔法を封じ、焼き払ってしまった。
ジュンデルは今後モクレインには一切触れないこととした。魔術師団の再建には20年の歳月を要した。