人物

B.C.1,327.7.4生, 2,956歳(見掛け--意味がない). 身長131cm 体重なし.

国王、リッチ

サンレール大陸（またの名を暗黒大陸）に君臨するリッチ。かつてはメルクスター・ヤルミールというノーソリアのアルフであり、初代フォルスターの直系、国王だった。当時のアルフはまだ創始の大白妖精の血を色濃く残した存在で、その魔力は現在のアルフとは比較にならない。王家ともなればなおさらである。当初はただ気が強く、手加減を知らない男だと思われていた。しかし、メルクスターの心にはいつからか混沌が忍び込んでいた。徐々に加虐性を露わにしはじめ、B.C.1,186年に国王となってからはそれを隠そうともしなくなった。そうしてB.C.1,160年、彼の統治に耐えかねた他のアルフたちが、メルクスターの従弟ライスターおよび弟のレイムスターを中心にして集まり、メルクスターの王位を否定、ノーソリアから追放することにした。この頃には光の魔力が歪んでいたメルクスターには、これを止める術がなかった。

メルクスターはファンドランドを出てセイレイ大陸へ向かい、＜上代の世＞の遠い親戚たちを頼ろうとした。しかし、彼の中に混沌を見たアルフたちは、森への立ち入りを拒否した。その後も様々な場所の親戚を頼ろうとしたが、どこの森にも受け入れられることはなかった。拒否されるたびに彼の恥辱と屈辱、そして怒りは高まり、それに従って心のうちの光は失われ、代わりに混沌が況して行った。20年を経た頃には、もはやアルフだけでなくどこの土地でも忌避される存在と成り果てていた。すでに自分が光の側の存在ではなくなっているのだと悟ったメルクスターは、現在シャドウランドと呼ばれている土地へ向かった。シャドウアルフはかつて光のアルフから枝分かれした存在であるが、現在では森との紐帯は遠くなり、荒野で気ままに生きることを選んだ者たちだった。その中でならまだ、と考えたのである。

シャドウアルフたちは、たしかにメルクスターを受け入れてくれた。というより、関わろうとしなかった。従って、居場所だけが確保されても、なんの意味もなかった。それにこの20年、誰かを傷つけようと考えても集団に近寄ることさえ難しく、彼の心はまったく満たされていなかった。シャドウアルフたちは影のように揺れてとらえどころがなく、傷つけることは難しかった。そんな状態で2年が過ぎたある日、ひとりのシャドウアルフが珍しく実体を伴って彼の前に現れ、見せたいものがあると言った。彼は会話できるだけで嬉しく（この頃はまだ、ノーソリアアルフとシャドウアルフの言語は「方言」レベルの違いだった）、何の疑いもなく彼に着いていった。そのシャドウアルフは、ある複雑な地形に囲まれた場所へ彼を案内し、そしてある柱状節理の一角へと至った。そこには、直径にして2m程度の洞窟が顔をのぞかせていた。シャドウアルフに続いてその穴に入ったメルクスターは、しばらくして前を歩いていたはずの男が見えなくなったことに気付いた。そして声をあげようとした瞬間、後ろから勢いよく突き飛ばされた。道はそこから急激な下り坂となり、メルクスターはなすすべもなく転がり落ちていった。

漆黒の闇の中を何時間転がっていたのか、記憶が曖昧だった。大怪我には至らなかったが体中が痛みを訴えており、考えることすら難しくなっていた。幸い両目は無事だったが。やがて、メルクスターは自分がすでに洞窟の地面を転がる存在ではないことに気付いた。彼は空中を漂いながら落下する存在になっていた。周囲は奇妙なことに明るかった。痛む頭で「なぜ地下に明かりが？」と思ったが、暗闇の中にい続けたことで感覚がおかしくなっているだけで、実際にはわずかな光だった。ともかくも、彼はその空中をひたすら落下し、地上に激突した。かなりの高高度から落下したはずであり、本来なら生きているはずがないと思えたが、骨が折れて肉を傷つけた程度で無事だった。もちろん、痛みはひどかったが、それでもなんとか立ち上がることができたのである。

彼の心はひどくねじ曲がった。もはや地上には何の未練もなく、ただただ憎悪だけがあった。その時から、何が起こったのか、彼の身体に闇の魔力が日増しに高まっていった。地上にいたときには想像もできなかったほどの闇の力だった。その周囲には多くの人間やその他の生物がおり、国を成している土地もあったが、彼らはただメルクスターに殺されるだけの存在になった。彼の力に敵う者はどこにもおらず、彼は日々殺して殺して殺しまくった。最初の殺戮から5年ほど後からは、かつての生物に新たな生を…つまり、アンデッドとしての生を与えるようになった。彼らには何の感情もなく、ただ主となった自分の命令に忠実だった。その支配力は数マイル四方程度までしか及ばなかったが、どのみちこれらを倒したり、制御を奪ったりする存在もいないのだから、関係なかった。

1世紀を過ぎた頃、メルクスターは自分の力をさらに高める方法を唐突に思いついた。自分もアンデッドとなる、ということである。そうして彼はリッチに転生した。彼はそのときからザクリズルを名乗っている。時間のくびきから解き放たれた彼は、もはや何も急がなくなった。その土地が比較的広大な大陸であると認識したのは、500年を過ぎてからである。そうして1,000年がすぎ、地上ではシルヴァーらの混沌諸神がエルメランらに放逐された後、その大陸には人間サイズの生物は存在しなくなっていた。以来1,600年、この大陸には時折迷い込む者を除いてザクリズルとアンデッドしか存在していない。その数はおよそ30万である。最高位は彼が倒した3体の古龍をアンデッド化したもの。他に2体のアンデッドフローティング・アイも危険な存在だが、99%はゾンビ、スケルトン、ワイトといった比較的低位の存在であり、歴戦の勇士なら個々の存在を駆逐することに苦はない。その圧倒的な数こそが問題である。

現時点ではナイトメア連合王国の連王サドヴァン4世と、不安定ながら同盟を締結している。この事実を知っているのはごく一部である。