アナーティアは人口4,000程度でルザリア河がシャイアン洋に注ぐ河口に位置し、大きな三角州が天然の要害となっている。一世紀以上前の大改造により作られた運河により街の隅々に水が行き渡る。かつては街の至るところで行われていた宗教行事が激減しているため、その水は比較的清潔なままシャイアン洋へ注いでいる。陰鬱だった商業区にも活気がもたらされてある。前王メルチョルは出入国税も大幅に下げた。その結果、他国からの交易商によってもたらされる品々が、そうした商業区に陳列されるようになった。出入国税よりも、商業区からの売上税の方がよほど収入になった。
これは他の諸都市も同様であるが、かつては水や土地の不浄さにより不可欠だった教会魔術による作物の成長促進が必要なくなった。大地が肥沃になり、ごく自然な農作業が行われるようになったのである。むろん、調理前の無毒化作業もまた不要になっている。
この状況を、教会の増長に不満を感じていた各地の貴族は歓迎した。「教会魔術を行使する術師たちに捧げていた寄進が無意味になった」という主張を展開することができたし、ほとんどの貴族は実際にそれを大幅に減らした。一部の貴族は住民に対する税を軽減し、自身の人気を高めたほどである。
近年は高度な術を扱える術師自体が減り続けており、それを教会は権威で持って誤魔化し続けてきた。貴族たちが教会から離反するのを止める手段もなく、形骸化は加速度的に進んでいる。一部の狂信的な者たちはまだ存在しているので、どちらかと言うと「虚勢を張っている」というのが現実に近い表現と言える。
街の活性化はまた、その明るさを憎む者たちも活性化させることになる。盗賊や野盗であり、国軍はそれらを取り締まったり調査したりといった仕事が主な日課である。