概要

シリア首長国は、かつてセイレイ大陸に存在した大国である。首都はクルスーム・ピラー（クルスピリア）。現在はフェルナンド帝国の領土となっている。

シリア首長国の成立は913年に遡る。かつて南ホーメルト全土を制圧したロングッド軍を迎え撃ち、7年の戦争の後にスサの戦いで壊滅的打撃を与え、撤退に追い込んだ。ロングッドはこの後南島全域で続発する反乱に悩まされることになる。メルメトン王朝が誕生することになった遠因でもある。

1,440年には西部の民主主義者たちが団結し、サル・ヒルド（ホーメルトではシェフィールド）を首都に独立を図った。当初は民主西シリアと称したが、1,518年にハーミナル共和国と改称。1,542年にサル・ヒルドを制圧し、シリアに大統一をもたらしたのが、第一軍の将軍だったワーキド・ウル・カビーラである。彼は圧倒的な信望をバックにしてバフール朝国王シリア11世に譲位を迫り、カビーラ朝シリア1世を名乗ることになった（シリアでは昔から王朝を問わず「シリア何世」を名乗っていたため、「シリア1世」は何人も存在する）。最後の国王となったシリア4世の曾祖父である。

1,599年に即位したシリア3世は、周辺状況に鑑みて国軍の強化を指示した。大海軍を擁するようになったのはこの時代であるし、戦闘機開発の異常発達も彼の時代である。ただ、彼らが世界最強の戦闘機とされたエル・シリアmk-IIを製造できたのは、明らかに何らかの超越的存在の介入によるものである。それはおそらく、1,606年に大陸西岸へ来襲したスメル帝国への対抗手段となるためだった。実際、1,612年のエルク上空戦ではスメル帝国に対し、歴史的な大勝利を収めている。

1,614年の混沌戦争では、西部で大きな被害を被る一方で主要機能のある東側の被害は比較的少なかった。

最後の王となるシリア4世は、1,625年に即位した。彼は父親のような知力や危機意識をまったく持たない人物であった。それでいて、不安は人一倍だった。ホーメルトの統一皇帝アーサーがセイレイ大陸を射程に収めていると知ると、彼の不安は爆発した。彼は第一次シリア湾海戦でフェルナンドを退けた名将エル・ファリドを煙たがり、首都に現れたホーストヘルン帝国の＜愚者＞の圧倒的な力に魅了された。

1,629年のフェルナンド侵攻で、確かに＜愚者＞は帝国艦隊に壊滅的な被害を与え、撃退させた。しかし、シリア4世は＜愚者＞を褒めちぎり、恩賞を与えれば帰ると思っていた。そんなことはなかった。＜愚者＞は宮廷を、そして街中を我が物顔で練り歩き、ものを盗み、破壊し、女を誘拐した。抗議に来た者たちを、眉ひとつ動かさずに粉々に分解した。そうした行動を、シリア4世はもちろん誰も止めることはできなかった。

次の行動もまた、シリア4世の知力を物語るものだろう。彼は子飼いの呪術師ナースィフに、自分をフェルナンド帝国首都バレラスへ送るように言った。ナースィフは訝しみつつこれに従ったが、数日後に後悔することになった。シリア4世は、撃退した帝国の皇帝に、＜愚者＞の駆除を願ったのである。しかも「何でもする」などと言って。シリア4世は皇帝の果たし状を手にクルスーム・ピラーに帰還し、＜愚者＞にそれを手渡した。そうしてシリア4世は、暴れ者の＜愚者＞を追い出せた代わりに、国そのものを喪うことになった。アーサーはバレラスでの戦いの後、シリア4世に対して、報酬としてこの地の支配権を要求したのである。無論彼に、それを拒否することなどできなかった。