ミスリオ湖方面から現在のミヤカランザ地方に至るかつて存在した王国。首都はミストル、国教はテシアス教。王家は代々近親婚だった。最後の国王はオルモア1世。またその忘れ形見の姫フレディアが、シヴィルスクにおいて育てられていた。
建国は1,427年に遡り、カーレ・ピカルディあらためカーレ1世が初代である。1,470年にミヤカランザ方面を併合している。1,521年、ジェトール王国からの宣戦布告を受けて戦争が開始され、これに介入したライトネアと三つ巴の戦いとなる。ジェトールの王朝交代を挟んで1,544年まで続いたこの戦争は、ジェトール戦争と呼ばれる。1,572年、アヴェターニャにおいてテシアス教徒がフレイム正教徒を虐殺したことでフレイム正教徒の大規模な反乱が発生、これをリューナー戦争と呼ぶ。リューナー（フレイム正教徒）の怒りは収まらず、各地で戦闘が続いた。この内戦は最終的に1,598年にアルベの令が発表され、フレイム正教が公認となるまで続いた。
ローア朝最後の王アリントン3世は、後のアリントン4世に暗殺された。4世は自らを3世の弟と称し、正当性をアピールしていたが、実際にはなんの血縁関係もない。当時から4世を疑う声はあった。現在ではミストル史の研究が進み、二人が兄弟ではないことはほぼ定説となっている。これにより3世までのローア朝と区別するために4世以降の3代はローヴン朝と呼ばれている。ローア朝の男子の血は3世の暗殺によって絶えたとされている。しかし、実際には一人だけその血を引いている人物がいる。3世の子を身ごもった平民女性から産まれた子で、現在アマリス帝国白色騎士団の将軍となっているピエール・コンドルセーである。ただし、母もピエールも、父親が誰かは現在でも知らないし、調べようとしたこともない。
裏エルヴァートに最初に進出したのはミストルである。これはフェルナンドのそれのように虹の島々経由ではなく、一旦北極に上陸した後に東進、次に南下して海岸に出る、つまり現在ファームズが採っているルートだった。ただ、ミストルはファームズと異なり、エストメス大陸にはほとんど進出できなかった。ホーストヘルン軍との衝突で壊滅的な打撃を被り、その地での前進を諦めたのである。仕方なく彼らは、そのまま海を南下してトーンダス半島を周回し、ズィドラス大陸に至った。ズィドラスという大陸名を付けたのもミストルである。エストメス大陸と異なり、フレンダーノを除くその地の人々には「大陸」という概念がなかったため、ミストルはシトカ王国で「大地」を意味する「ズィドラス」をそのまま大陸名として用いた。「フィンディル」はフレンダーノが用いている単語で、ミストルやファームズも後々そのことに気づいたが変更はしなかった。
ミストルは1,594年、シトカ王国内にマンダナグル社を設立した。なお、虹の島々を伝って裏エルヴァートに至るルートを発見したのはファームズであるが、どのみち現在はフェルナンドの進出により使用不能となった。
ミストルはマンダナグル社から得られる富を本国にもたらす経路の構築に手間取った。これは主にラウドス海（海賊海）からカカ海に跋扈する海賊に航行の安全を脅かされ続けたからである。エストメス大陸を諦めていたし、陸地を通行することで支払う通行税を嫌った。
他方、後からこの地にたどり着いたステインおよびリューファイオンの兄弟が率いるファームズ軍は、多少の出費があっても物資を安全に移送することが最重要と考えた。彼らもまた最初に上陸したのはエストメス大陸であるが、ホーストヘルンとは一切争わずに交渉し、マンダナグル方面から得られる富の一部を提供すること、そして表エルヴァートとエストメス大陸との交易も行うこと、さらに将来的にホーストヘルンがファームズ（オージャス大陸）に拠点を置くのを承知することをもって帝国内の通行を認められた。最後の条件は、時の皇帝リアン・ファームズ24世の裁可を経ず、ステインら兄弟が独断で認めたものである。テリオンのエレベータを始めホーストヘルンの魔術移動手段も利用権を得たことで、シャイアン洋に至ってから南下、テラドナ島周辺を通過する、ラウドス海を経ない比較的安全なルートを得た。これがその後の交易におけるミストルとファームズの決定的な差となった。
ミストルはデュール内海海戦でファームズに敗れて（この戦闘は、ほとんど一方的なものだった。戦闘前に総大将だったルネ・ダントヴィル提督が不慮の事故で死亡し、残された水兵たちは戦える状態ではなかった）から本国での勢いに陰りを見せており、裏エルヴァートとの交易に起死回生を賭けたが、叶わなかった。1,609年5月、ミストルは首都の面したミスリオ湖ザート湾の戦いでライトネアに敗れて滅亡する。マンダナグル方面の権益はそのままファームズに引き継がれた。ライトネアは裏エルヴァートの存在には気づいていた。しかしそこへ至る手段がなかったためにファームズによる独占を阻止することはおろか、気づくこともできなかった。
なお、フレディアはその後1,614年にシヴィルスクを出て、2年後にグリミディア王国のリンゴ農園師と結ばれて現在でもそこに暮らしている。