概要

ケルマド教国は、オージャス大陸の北東に隣接したケルマド島を支配する国家である。首都はカリアト、1,630年現在の支配者は教皇シュリンデール。双子神バトラスとウォーニスを信仰するケルマド教が国教とする。

かつてはケルマーと呼ばれ、その旺盛な戦闘意欲で知られた民族であった。戦いの神であるバトラスとウォーニスへの信仰は紀元前から存在しており、当初は各地の一族同士で争っていたが、やがて島の外へ目を向けるようになった。700年頃に現在のケルマド海峡対岸、ケッセルやマグリスといった街を襲撃・略奪し始めると、あっという間にその範囲を広げていった。AC1,000年頃には現在のアマリシア周辺やデュール内海のスレイマといったあたりまでがその対象となっており、また各地の河を遡って川沿いにある内陸の街をも襲っていた。彼らは各地で恐怖の対象となり、主にファームズ方面の人々から「ヴァイキング」と呼ばれた。彼らの行動は略奪が目的であり、戦闘はあったが決して相手を皆殺しにしたり、あるいはその地を支配したりすることはなく、十分な物資（価値のあるものもないものも）が得られれば速やかに船を引き上げていた。

823年に対岸のオリアルドで建国されたエルドレスも、数度ケルマーの地への侵攻を試みたが、もとより陸戦の国であって海戦では比べるべくもなかった。997年のカリアト沖海戦で艦隊が壊滅的な打撃を受けると、それっきりこの地に干渉することをやめてしまった。

ヴァイキングへの備えによって、こうした地域の都市に堅固な城壁が作られはじめた。これにより、ヴァイキングの遠征は終焉を迎えることになったが、都市の防御機構という意味で、ケルマーが各地に与えた影響は大きい。また、極端なまでの略奪は時に船を沈没させかねないほどの物資を抱えさせることになり、彼らは場合によってこうした物資を帰路にある街や市場で売りさばいていた。文化圏の異なる物品をかき混ぜるという意味でも彼らの活動には意味があった。これによって各地の目ざとい者たちが、交易商人となった例もある。

現在のケルマド教国が建国されたのは1,429年である。ケルマドとは、彼らの言葉で「ケルマーの中心（あるいは寄り合い、集団など）」を意味する。ケルマーは部族主義でそれまで統一的な国家を持たなかった。部族のひとつカリアト族の長（神官）を務めていたヨスト・リンデンバウムが、バトラス神の信託を受けたと宣言、奇跡を見せることで他の部族に配下となることを要求した。いくつかの抵抗は試みられたが、巧みな話術や賄賂によって10年のうちに全島を掌握、神官王ヨスト1世となった。彼やその後継者たちは、諸外国の統治機構を参考に様々な近代化を国家にもたらした。それぞれの一族が持っていた戦力を海軍という形で国家に所属させたのは1,481年である。1,576年には神官王ルフトズィーゲルが、ケルマド教の最高位階を「教皇」とした。また、神官王直属の特殊任務部隊である特務神官を、枢機卿とした。いずれもエルメラン教等海外の大宗教を参考にしたものである。その後1,593年にはファームズと安全保障条約を、1,600年にはローランと友好通商条約を締結するまでになっている。この間、他国は一度としてケルマドを攻めなかった。

首都カリアトはヨストが出たカリアト族の中心地であり、カリアト族の伝承では、双子神バトラスとウォーニスが聖山ラウニへ赴く前に最後に立ち寄り、休息を取った場所とされている。島の東西南北に似たような伝承が伝わっていたが、カリアト族の伝承にはそれなりの具体性があったし、いずれにしても統一を成し遂げたのはこの部族であったため、徐々に他の部族でも受け入れざるを得なくなった。ただし、200年が経過した現在でもこれを受け入れず、部族の秘密あるいは公然とそれを主張し伝承する者たちは存在する。史実としてはカリアト族の伝承が正しい。

しかし、大陸にジアザー帝国という覇者が登場して状況が一変した。1,616年、ジアザーのホワイトナイツ艦隊はグレゴール沖でケルマド艦隊を壊滅させた。1,611年に教皇となったシュリンデールはひたむきな交渉によってジアザーの将軍テイラー・グラハム・シュムペーター大将を説き伏せて帝国への併合は防いだが、南部3都市（グレゴール、ケリン、ローリッヒ）の租借を飲まされることになった。それまで、周辺国はどこもケルマドの強さを疑っていなかった。しかしジアザーという新興国が、その強力なはずの艦隊を一撃で葬ってしまったことで、周辺国はいずれも（かつてはともかく）現在のケルマドが張り子の虎であることを知ってしまった。

ジアザーは1,629年にアマリスと国名を変え、支配者も変わった。新しい支配者で建国帝の息子であるジアザー・テレビジョン2世が父親をこえるタカ派であることはケルマドでも知られており、この地の完全支配を目論んでいることも把握している。1,629年末には帝国への参加要請を正式に発表した。しかし頼みの綱であった艦隊が壊滅した今、その牙を受け止める術はないと考えられる。

四色を縦に配した国旗を掲げている。赤は双子神が尊ぶ戦いの活力、青はそれを保証する限りない自由、白は明朗さや公明さ、そして緑は大地にしっかりと根を下ろす安定を示している。