概要

ファーランドはホーメルト南島の南東部にある一つの街である。魔法によって守備力を高められた高い外壁によって守られている。そこに住む者たちは、9割近くが何らかの超自然の力の使い手である。外壁内の全体に白い砂利が撒かれ、周囲の地面よりおよそ60cm高くなっている。この砂利は魔法で特別に脱色され、不純物を取り除かれたものである。それ自体が魔法の産物というわけではないため、ディスペルすることはできない。いずれにしても、この清められた砂利の周辺では魔力の純度が高まり、たとえば攻撃魔法であれば威力が増す。これはおよそ600年前にファーランドで行われた魔術実験による副産物である。

現在の市長はセルミアス・ミルフという女性で、＜紅の高導師＞などと呼ばれる。1,618年に死去した前任ライダー・マイコラスから職務を引き継ぎ、停滞し陰鬱になっていたファーランドを建て直した。就任当初、街の老魔術師たちは彼女を馬鹿にし、嫌味を言い、あるいは口汚く罵り、事あるごとに涙ぐませていた。「女の分際で」あたりは毎日のように出た発言である。彼女の政策によって街が活性化しはじめると態度を一変させる者も出てきたが、それでも内心では小馬鹿にしていた者も少なくない。

彼らが心底から態度を改めたのは、1,620年に発生したアンデッド軍の襲撃のさなかである。このとき、雲霞のごとく押し寄せる亡者の群れに対し、セルミアスは強大な攻撃魔法を繰り出した。それは通常の魔術師の使う火球や雷撃の魔法が児戯にも等しいと感じさせる規模だった。自分たちが馬鹿にし、散々嫌味を言ってきた相手の真の力を目の当たりにした老魔術師たちは生きた心地がしなかったのである。気づいていた者は少なかったが、セルミアスは同時に街全体の防壁に巨大な魔法障壁を重ねがけしてもいた。しかも決着がつくまでの一週間ほぼ不眠不休だった。セルミアスが＜赤き超導師＞と呼ばれた大魔術師セイリアン・ダルスの関門弟子（最後の弟子）であることは知られていたものの、その魔力が世界屈指のものだとは、このときまで多くの者が知らなかった。

ファーランドには50名程度のリアノが暮らしている。ファーランドに住むことにした理由は様々であるが、様々な魔法が集うこの街に魅力を感じた者も多い。集団としての代表はミデルハビエルという名の壮年のリアノ魔術師。