忠臣

ジョンはあるとき、発作的に不死に憧れた。国内の賢者はいう。不死は神々が与え給うもの、人の能くするところではない。しかし遥か大陸には、神代から伝わる不死の妙薬がわずかに残されているという。

折りも折り、ジョンのもとへ西大陸のスメル帝国から来たと名乗る異国風の商人が訪れた。ジョンはすぐさま問うた。

「お主の国に、不死の妙薬はあるのか？」

商人はあると答え、ジョンは有頂天でそれを売るように言った。商人は1週間お待ち下さいと言ってその場を辞した。ジョンの大臣たちは、魔術師でもない男が1週間で遠い大陸へ行って帰って来られるはずがないと考え、「インチキに違いありません」と口々に進言したが、ジョンは背中に翼が生えたように、地に足がついていなかった。

1週間後、ジョンは件の妙薬を手に入れ、代価として100万ホーメルトを支払った。彼の経済感覚からすれば、この程度で不死が手にはいるのなら安いものだったのである。商人は早々に次の稼ぎ場所へと去っていた。そこには見るからにまがい物と言わんばかりの、毒々しく緑色に濁った液体を入れた、透明な蓋付き瓶が残された。

だが、その薬をジョンが飲むことはついになかった。瓶の栓を抜いた直後に、延臣のひとりがジョンの手からそれを取り上げ、天を仰ぐと一気に飲み干してしまったのである。ジョンは怒り、普段はまったく触れることのない玉座の後ろの剣を引き抜くと、無礼者の首を刎ねようとした。すると、剣の輝きを恐れることなくその延臣は言った。「どうぞ、遠慮なく私をお斬り下さい。もし、かの薬が本物なら私は死なないはずですし、偽物であれば陛下はそんなつまらないもののために一人の延臣を殺すことになるのです。」

しかし、命を賭した男の諌言も、ジョンの心を動かすことはなかった。

「お主は不死であるから、ここで斬られたところで思うことはない。だが仮に不死でないとしても、不敬の大罪を看過することはできぬ。」

こうしてジョンは、数少ない忠臣を自らの手で失った。このときのジョンの心理を批難し得るかどうかは別として、不死というものがいかに人間の営みに深い影響力を持つか、そしていかに馬鹿げたものであるかを、伺い知ることができよう。