ファームズ帝国の今後

ヴィクトリアとゼネシアは、ランセスの要望に応えるための条件を提示した。それはランセス自身が、心の底ではそうすべきではないかと考えていたことだった。即ち、ランセス自身が王となるという条件を。

累代の恩顧故に従っているが、国民にとって皇帝は「シャーは素晴らしいコートボーラー」であり、ファームズ26世として即位して以来、統治者としてはあまり評価されていない。父の代に王家をファームズ王国に戻したとは言え、新興アマリス帝国に連敗したことで帝室への信頼は揺らぎ、彼が国民議会を閉鎖してダグラス・エース議長を軟禁したことによって親近感すら失われた。遠からずアマリスに敗れて国家は滅亡、ファームズ州、サリトル州、ミュンハイム州になるのだろうと、ほとんどの国民は考えている。ランセスがいなければヘレネス王国のようにとうに滅亡していたかも知れない。実際には26世の詐術によるものもあるが、一般国民には分からない世界である。この国の最期に付き合う必要があるか。度量があるなら、皇帝を廃して彼自身の名声で国をまとめるべきだ。アマリスの従属国になる以外の選択肢はおそらくないだろうが、このまま滅亡への道を歩むよりはましではないか。

前皇弟たち(リューファイオン公爵、クライソン侯爵)はランセスを買っている。彼らは自分たち兄弟に統治の才がないことを理解しており、条件が整えば臣下の礼を取ることに抵抗はない。軍の実権は既にランセスが握っており、加えてクライソン・テセウスが味方すれば彼らの支配下にあるマンダナグル勢力もまた全面的にランセス勢力となる(現状でもテセウス〜ランセスのルートはほとんど確立しており、ランセスはマンダナグル方面に一定の影響力を持っている)。

ミュンハイムとサリトルは既に帝国からの離脱を考え始めている。ランセスがアマリスに渡りを付けた上で登極する以外の道では戦は避けられないだろう。それは帝国の民にとって有害無益だ。

アマリスにとって注目に値する人物は帝国内でランセスを置いて他におらず、2国が単にアマリスに服従しても王家は廃嫡され、州に格下げされるだけだろう。しかし、彼らにはその計算はできていない。ランセスが彼らを従えれば三国まとめてアマリス帝国の従属国となり、現在の連合国家は消滅するが、他の2国に優位な立場となり得るし、評価の高いランセスなればこそ、アマリスも2国の存続に同意する可能性が生まれる。

議会の解散とエース議長幽閉により、既にリューファイオン、クライソンは甥に見切りを付けている(ティルソンは空想だけのちっぽけな存在であり、考慮に値しない。放っておいても悲嘆と妄想の中で生きるだけだろう)。しかし彼らにも、彼らの息子たちにも国を統治することはできない。彼らとしてはザンベルクが長じて才覚を見せるか、またはセリナーの夫が継ぐかと考えており、現時点でランセスは(男爵として領地経営の実績はあるが)候補になっていない。

メディア(ヌミノーゼ)は元々帝国の実権を握ろうとしていたため、自分の家族に大権が与えられるのであればランセスの登極に反対せず、味方になる。