彼とスロリクトラがはじめて出会ったのは、ロングッドの国王メルメトン2世の催す舞踏会の前日であった。
スロリクトラがその日特にすることもなく城の庭園を歩いていると、貴族の公子らしき金髪の少年と出会った。歳の頃は18といったところであろうか。お坊ちゃまだな、とスロリクトラは判断した。すると少年は口を開いて、自分より20ばかりも年上であろう彼にこう問うた。
「君は誰だ？」
「スロリクトラ・ドバヌール、ファンドランド領男爵。」
スロリクトラが威厳に満ちた声で名乗ると、金髪の公子は形のいい眉をつり上げて言った。
「スロリクトラ？賊っぽい名前だな。」
いきなり無礼なことを言われて、スロリクトラは面食らって返答に窮した。すると公子は続けてこう言った。
「でもドバヌールっていう名字はいいな。不快な響きだ。そう…まるでドブのなかのヌルヌルした汚物を思わせるような…僕はこれから君のことをドバヌールと呼ぶことにするよ。」
スロリクトラはあっけにとられた。生を享けてからこのかた、かくも痛烈な侮辱を受けたことがあっただろうか。しかも相手は初対面の少年である。しかし、言い返す間もなく公子はつづけた。
「僕の名はアーサー・フェルナンド、フェルナンド王国の王子だ。ではさらばだ、ドバヌール！ ハーッハッハッハッハッ！！」
高笑いとともに金髪の公子アーサーは去り、後にはドバヌールが、怒りに肩を震わせながら、ただ一人佇んでいた。
解説：
このエピソードは一般に語られているものだが、実際にあったものかどうかは定かではない。
田中芳樹著「銀河英雄伝説」でラインハルトとキルヒアイスが出会うくだりのパロディである。